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「精通」や「初潮」って誰が決めたの? ― 性にまつわる日本語の意外な語源を探る
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私たちは、性について話すとき、どこか「口にしづらい」空気を感じることがあります。それは内容そのものの問題というよりも、使う言葉に重々しさや照れくささが染みついているからかもしれません。 たとえば「初潮(しょちょう)」や「精通(せいつう)」という言葉。どちらも思春期の体の変化を表すものですが、日常会話で自然に出てくることはまずありませんよね。「難しそう」「古めかしい」「なんか学校ぽい」といったイメージを持つ人も多いでしょう。 今回は、そんな性に関する言葉の“語源”に注目して、言葉が持つ歴史やニュアンスを紐解いてみます。 「初潮」:なぜ“潮”なのか? 「初潮」は、女性が初めて月経を迎えることを意味する言葉。では、なぜ「潮」なのでしょうか? 「潮」という言葉は、海の満ち引きと月のリズムを連想させるため、昔から月経と結びつけて考えられてきました。英語でも「period(周期)」や「menstruation(月の変化)」など、月や自然のリズムに基づく表現が多く見られます。 また、日本では古くから月経は「けがれ」とされる一方で、「女性が神聖な力を持つ時期」と考えられる場面もあり、宗教的・文化的な二面性がありました。「潮」というやわらかい語感は、その微妙なニュアンスを包み込むための、いわば“やさしいオブラート”だったのかもしれません。 「精通」:なぜ“精”を“通る”?宗教と漢語の影 一方、男性の思春期の変化を表す「精通」。これは、中国古典医学や儒教的な影響を受けた言葉です。 「精」は「精子」を含む生命エネルギー、「通」は“流れが通る”という意味。つまり、生殖能力が発現することを、まるで“気の通り道”のように表現した言葉なのです。 実はこの言葉、「性を語ることをタブー視する時代」に、医学や宗教という“堅い皮”でコーティングされた表現だったとも言えます。だからこそ、現代の子どもたちにはちょっと遠くて難解に感じられるのです。 「避妊」:実は明治以降の近代語? 意外かもしれませんが、「避妊」という言葉は、明治時代以降に西洋医学の流入とともに登場した比較的新しい表現です。 それまでは「間引き」や「堕胎」といった、もっと過酷で直接的な選択肢が語られる時代が続いていました。 この言葉の登場には、以下のような背景があります: 人間の自由や健康の保護 社会や家族の在り方の変化 性と身体の自己決定権の意識 女性の権利意識の高まり 医療技術の発達 国家の人口政策 つまり「避妊」は、単なる医療用語ではなく、近代社会の価値観や思想を反映した言葉だといえるでしょう。 セイシルでの避妊に関する記事はこちら 「セルフプレジャー」:自分を大切にするという考え方 最近では、特に女性の性教育やフェムテックの分野で、「マスターベーション」という言葉をもっと中立的・肯定的に表現しようという動きが広がっています。そこで登場したのが「セルフプレジャー(self-pleasure)」という表現。 この言葉は、「自己愛」「自己肯定」「快感は自分自身でも育てていいもの」というメッセージを含んでおり、“行為”よりも“自分を大切にする態度”としての性に焦点を当てています。 たとえば、メンタルケアの現場でも、セルフプレジャーを「ストレス解消」「身体の理解」「自己決定権の一部」として積極的に扱うケースも増えています。セイシルでもストレスとセルフプレジャーの関係について紹介しています。詳しくはこちら 「セルフプレジャー」や「自分の体に触れることも大切な学び」という前向きな語り方は、自分を大切にする感覚を育む入り口にもなります。 「なんとなく汚い」「口にしたくない」という気持ちを乗り越えるには、まずその言葉に込められた“背景”を知ることから始めるのが大切ですね。 言葉が変われば、性教育も変わる 言葉は時代を映す鏡です。そして、私たちが“どう伝えるか”を考えたとき、最初に向き合うのも言葉です。 例えば男性器にしても「ペニス」「陰茎」「おちんちん」「デリケートゾーン」など、親・学校・メディアごとに呼び方はバラバラ。それぞれの言葉に、時代や意識の違いが表れているのです。 ことばを“開く”ことから始めよう 性教育において最初の壁は、知識の不足ではなく、言葉の閉鎖性にあるのかもしれません。「なんとなく言いにくい」「恥ずかしい」と感じてしまうのは、使う言葉が私たちにそう感じさせているからです。 だからこそ「なんでこの言葉を使うんだろう?」と一度立ち止まってみることが、性教育を“もっと開かれたもの”に変える第一歩になります。 性を語るときこそ、言葉に敏感でいたい。そんな視点を、今日から少しだけ持ってみませんか?
どうしてTENGAが性教育?セイシル誕生秘話
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「TENGAって性教育までやってるの?」「セイシルってTENGAがやってたの!?」 そう驚かれることがよくあります。実はTENGAカンパニーにとって「正しい性の知識を広めること」は、創業当初からずっと大事にしてきたテーマです。 そんな中で、性教育の情報サイト『セイシル』を運営しているのが、TENGAカンパニーの1つである株式会社TENGAヘルスケア。 性に関わる企業だからこそ、ただ商品をつくるだけではなく、性にまつわる“正しい知識”を届けることも、私たちの役割だと考えています。 実際に、商品を通じてお客様から届く声には、性についての疑問や悩みがとても多く含まれています。中には、ネットやアダルトメディアから間違った情報を信じてしまって、大人になってから困っているというケースも。「誰かにちゃんと教えてもらいたかった」――そんな声を何度も聞いてきました。 TENGAでは、思春期学会への参加や性教育授業への見学、専門家の方との研究会やイベントなどを通じて、どうしたら性の知識をより正しく伝えられるか、ずっと模索してきました。 TENGAヘルスケア主催の「セクシャルウェルネスフォーラム」での様子(2019年) そんな中で、助産師さんや学校の養護教諭の先生からこんな声が上がったのです。 「生徒にマスターベーションについて、どう教えていいかわからない」「安心して紹介できるサイトがあれば助かるのに」 その声をきっかけに、「子どもたちが性について安心して学べる場所をつくろう」と考え、生まれたのが『セイシル』です。 セイシルは、思春期の子どもたちが抱く“性のモヤモヤ”に、医療や教育の専門家がやさしく答える性教育のWEBメディア。今のネットには性に関する情報があふれていますが、その中には間違った情報や偏った内容もたくさんあります。TENGAが行った調査でも、多くの人が最初に性の知識を得たのは「ネットやアダルトメディア」と答えていて、それが悩みや不安につながっていることがわかりました。 だったら、正しい知識を安心して得られる場所を私たちが作ろう!そうしてセイシルがOPENしたのです。おかげさまで5周年を迎えることができました。 ▶5周年イベントの詳細はこちら TENGAカンパニーのビジョンは、「性を表通りに、誰もが楽しめるものへ。」性を特別視せず、もっと自然に、オープンに話せるような世の中にしたい。そのために、性教育は欠かせないものだと考えています。 いつか、家庭でも学校でも、子どもたちが性についてきちんと学べる環境が整って、正しい情報に出会えますように。私たちは、これからもいろんな形で性教育に取り組んでいきます! ▶ TENGAが目指す世界について詳しくはこちら
【活用事例】ふれあいの12段階を活用したワーク
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今回はwithセイシルで提供している「ふれあいの12段階」の画像を活用したワークを紹介します! ふれあいの12段階とは? 「ふれあいの12段階」とは、イギリスの動物学者デズモンド・モリスが唱えた考え方のことです。恋人同士がどんな過程を経て親密になるかを12段階に分けて示しています。 どこをゴールにするかや、ステップの順番や数はこの通りでなくてもいいのですが、セックスを含む「性のふれあい」には段階があるということを意識することが大切です。 セイシルでは「ふれあいの12段階」を性知る記事「はじめてのセックス その前に。」で紹介しています。 ふれあいの12段階を用いたワーク 上記の「ふれあいの12段階」の画像を活用して、助産師の有馬祐子さんが素敵なワークを考案してくれました。このワークは、学芸大学附属世田谷中学校、谷百合香先生の授業実践を参考にしていて、今回はそのワークの内容と制作した教材を紹介します! 高校生向けと小学生向けにそれぞれ授業が行われました。 高校生に向けた実践「接触・ふれあいの同意についての学習」 まずは、都内の高校2年生に向けて行われたワークの紹介です(授業内容は全てではなく、省略している部分があります)。 授業実践の流れ ①個人ワーク 生徒一人ひとりに、「ふれあいの12段階」のうち8枚のカード( 「目から体」「目から目」「声から声」、 「手から手」「腕から肩」「腕から腰」、「手から頭」「手から体」)を配布。親しくなっていくにつれてふれあいはどのように進展していくか、生徒一人一人が考察して、ワークシートに記入しました。 ②グループワーク 3〜4人のグループで、それぞれの考えを発表し合い、共通する箇所、異なる箇所について確認し合いました。その後、グループの考える 8つのふれあいの進展について考えをまとめる作業をしました。 ③全体共有 6グループで作成したカードの順番を一つの場所に並べ、様々な考え方があることをクラス全体で共有しました。 ④まとめ デズモンド・モリスの『親密の12段階』の順番をホワイトボードで示して、参考として提示し、人が親しくなるのに受け入れられるふれあいの進み方(順番)というものは、一人一人が違うことを伝え、同じにしようとするものではない、ことを確認。 違うからこそ、良い関係性を持つためにはコミュニケーション、対話を持って同意をとることが大切になること、自分の考える順番を相手に同意なく求めることは、穏やかな関係性をこわす可能性があると伝えました。 この後、次の時間に「壁ドン」や「バックハグ」などについても考え、親密度の進展についてあらためてグループで話し合い、デートDVチェッカーを配布しました。 授業を受けた生徒の感想 最後に、生徒からの感想の一部を紹介します。 ・人それぞれ考えや、嫌なことが違う。カードは対象の人を誰にするかで、結構結果が変わりました。誰かに触る時は、友達でもちゃんと考えたい。相手が嫌がることはしないようにしようと思いました。 ・シチュエーションによって親しさの段階は変わっていくし、人によっては嫌がることや許せることなどが変わってくることがわかりました。自分の感情や気持ちだけで行動するのではなく、相手の反応や行動を見てからにしようと思いました。 ・人によって順番がバラバラで、感じ方もそれぞれ違うことが分かった。自分はそこまで親しくなくてもできることでも、他の人からしたら親しくないとできないこともあって、自分が意見を強調しすぎないようにしようと思った。無理にすることも良くないし、断ることも大切。 ・相手を異性とするのか、同性とするのか、そして他人としてできるのかなどでカードの並びは変わっていくだろうと思いました。自分がいいと思っていることでも、相手にとってそれは嫌なことかもしれない。だから人間関係は難しいんだなと思いました。 ・今日の授業で、価値観がみんなばらばらだったことに驚きました。だけど、なぜこの順番にしたのか話し合ったりすると、相手の考えが分かったり、自分の気持ちを理解してもらえたりして、すごく楽しかったです。 ・人によって、全然距離も感じ方も手段も違うということを、改めて確認することができました。私は距離が近くなってしまうので、苦手な人もいるということを頭に入れておきたいです。 ・人それぞれ、親しさ段階の考え方が違って、考え方が違うと同時に、感じ方の違いも学びました。だから、自分が「いいでしょー」と思ってやったことが、相手にとって嫌なことの可能性もあるから、同意をしたうえでやったり、信頼し合える仲になった時など、自分のことも相手のことも、その立場に立って考えることが必要だと思いました。 小学生に向けた実践「ロイロノートを活用した学習」 次に、都内の小学5年生に向けて行われたワークの紹介です。 〈あなたが思う「親しくなっていくふれあいの順番」は?〉という質問に対して、ふれあい・親しさについて考察しながら、ふれあいの12段階の内8つのカードを、ロイロノートを使用してタブレット上で並べていきます。 カードには、ふれあいの行為をイメージしやすいように言葉を添えています。 【目から体】その人がいるとわかる 【目から目】おたがいに目が合う 【声から声】その人と言葉を交わす 【手から手】その人と手をつなぐ 【腕から肩】どちらかの人が、相手の肩に手をふれる 【腕から腰】どちらかの人が、相手の腰に手をふれる 【手から頭】おたがいに頭にふれる 【手から体】おたがいにだき合う (有馬さんが、小学生にわかりやすい言葉を助産師の相賀佳代子さんと考えました。) それらのカードを自分の生活の中で人とふれあう機会を思い起こしながら並べ、それぞれが考えた順番を教員に送信しました。 今回は、友人同士で意見交換をする場面は作らず、教員4名が作成した順番を生徒に見せながら次のことを子どもたちに伝えました。 「人の考えには違いがある」 「同じこともあるけれど、違う場合は相手の思いを確認できないでいるから、不愉快な気持ちにさせてしまうことがある」 「確認をとることは大切」 「いやな関わりやふれあいがあったら『いや』と言って、自分の気持ちを守っていい」 授業後には「くすぐられる嫌がらせを受けて困っている」と教員に伝えることができた児童が数人いたようです。 授業を受けた児童の感想 最後に児童からの感想の一部を紹介します。 ・今回の授業で人と自分とでは触れ合うことに対する価値観が違うということがわかりました。自分より敏感な人に気をつけたり嫌そうな顔をしている時は引くようにするなどして今後の生活に役立てていければいいなと思います。 ・今回の授業では、心や体を大事にすることが、とても大切なんだなと学ぶことができました。人は、それぞれ個人差があるということが、学びとなりました。人の体に触れるときには、しっかり許可を得なければいけないということを、改めて実感できました。 ・今日の授業では、友達との関わり方や心の発達の話など、いろいろなことを学ぶことができ、正しい知識を得られたので、よかったです。また、今日の授業で習ったことをこれからも大切にして、今後の生活に活かしていきたいです。 ・今日は「やめて」といってもよいということが僕の心に残りました。 僕はいつも本当はやりたくないことを無理してやることが多かったが、「やめて」といってもよいと知ると心がすこし楽になりました。 実践を振り返って 授業を実践した有馬祐子さんよりコメントをいただきました。 ふれあいの行為をカードで表し、親しさの進展について考えさせる方法は、子どもたちにとって非常に分かりやすいと感じました。また、この学習を進める際には、ふれあいの対象が「親しい友達」なのか「恋愛対象」なのかを明確にすることで、子どもたちが課題に取り組みやすくなると思います。 「性的同意」をテーマとする授業を準備する場合、もし時間に余裕があるなら、まず今回のように性的接触を表すカードを使わず、ふれあいと同意について考察する機会を設けるのが良いでしょう。その上で、次の授業で「この行為が加わったらどのような影響があるか想像してみましょう」といった形で性感染症や妊娠の可能性に触れると、子どもたちにとって「性的同意」の理解がさらに深まるのではないかと思います。 授業の中で、「ふれあい」や「接触」に対して想像することが難しいと感じる生徒もいました。ある生徒からは、「このカードは全部使わなければいけないんですか?親しさが増したとしても、私は『嫌だ、してほしくない』というものがあるんですが、それでもいいですか?」という質問がありました。 このような場合には、「この8枚のカードを使って親しさが増していく段階を考えて並べてみましょう。ただし、すべてのカードを使用する必要はありません」といった説明をあらかじめ添えることで、子どもたちの困惑を和らげることができると考えます。 有馬さん、素敵な活用方法をご紹介いただき、ありがとうございました! みなさんも「同意」の理解に繋げるためにも、ぜひ「ふれあいの12段階」をご活用ください♪
【イベント報告】10代向け性教育メディア「セイシル」5周年イベント
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10代向け性教育メディア「セイシル」が2024年12月に5周年を迎えることを記念し、「ライフステージに寄り添う性教育のあり方」と題したイベントを実施。(2024年11月28日) イベントでは、モデル・クリエイターの鈴木えみさん、一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」代表幹事で、元高校教諭の水野哲夫先生をお迎えし、「ライフステージに寄り添う性教育のあり方」をテーマに2部制に分けてトークセッションを行いました。全編はおとなセイシルで詳しく紹介していますのでぜひご覧ください。 第1部:鈴木えみさんと語る「性教育の輪を広げよう」 第2部:水野先生×セイシル「ライフステージごとの性教育のあり方」 withセイシルでは、性教育従事者の方に向けて、特に参考になる第2部の水野哲夫先生とセイシルを担当する福田(元 保健体育教員)のトークセッションの様子をご紹介します。 セイシルの5年間の歴史を紹介する展示品 会場入り口には、セイシルの5年間の歴史を紹介する展示品をはじめ、性教育の年表、withセイシルでも紹介しているセイシル本やデートDVチェッカー、コンドームモデル(アームサイズ)なども展示しました。 性教育の年表は、今後withセイシルでも提供予定ですので、どうぞお楽しみに! 水野先生が性教育に関わるようになったきっかけは「反省」から 福田:性教育界隈では、水野先生を知らない方はいないんじゃないかと思うほど、多くの性教育従事者が先生を参考にしていると思います。まずは、水野先生の性教育活動について、どのような想いでこれまで続けてこられたのでしょうか? 水野先生:1996年に、大東学園高校で1年生の総合科目として「性と生」の授業が始まりました。私は翌年1997年にそのチームに加わり2013年に定年退職するまで関わってきました。高校で年間20時間以上性教育がある学校は非常に珍しく、東京都内では私立で3つだけです。(大東学園高校、正則高校、吉祥寺女子中学高校)私が性教育に関わることになった当初、当時は性に関して無知な駆け出し教員でしたので、高校生の性行動を「問題行動」としてしか捉えていなかったんです。上から言われるままに、例えば、生徒の財布にコンドーム入っていたら「不順異性交遊だから保護者を呼び出して注意する」ということをしていました。それが生徒に対して良い事だと思ってしていました。しかし、卒業生から「先生の性教育は、私たち生徒を苦しめていた。間違っていると思います。」と言われてようやく気が付き、反省しました。その反省を胸に、これまで性教育を続けてきました。 福田:性教育活動のきっかけは反省からだったんですね。性教育界隈では水野先生のことを知らない方はいないんじゃないかというほど、水野先生の意思に共感している性教育従事者は多いかと思います。今日は短い時間ですが、たくさんお話を聞いていきたいと思います! <登壇者プロフィール> 写真右:水野 哲夫(みずの・てつお) 一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」代表幹事。 元高校教諭であり、私立・大東学園の包括的性教育の授業「性と生」を長きにわたり先導。 写真左:福田 眞央(ふくだ・まお) 保健体育科教員として勤めた後に大学院に入り、ジェンダー学・性教育を専攻。2021年からTENGAヘルスケアに携わり、10代向け性教育WEBメディア「セイシル」を担当。 10代の性に関する悩みカテゴリー1位はマスターベーション セイシルのモヤモヤ投稿フォーム 福田:セイシルでは、「モヤモヤ相談室」という性の悩みや疑問(モヤモヤ)を募集するフォームを設置しています。昨年モヤモヤ相談に投稿された10代からの約3000件の1データがこちらです。 福田:10代からは、圧倒的にマスターベーションに関する投稿が多いことがわかりました。このデータをご覧になって、水野先生はどう思われましたか? 水野先生:子どもたちにとって、マスターベーションは誰からも教わりづらいものということですよね。 実際、マスターベーションについて教えている学校はほとんどないですから。よく頑張って教えている学校でも、「自慰・マスターベーションは有害ではないよ」といった程度の内容ですので。 私はこのグラフだけではなく、すべての投稿(文章)を拝見しまして、女性からの「マスターベーションで性的な快感を得られない」という相談がすごく多いなと思いました。そして、何を基準に快感が得られないと言っているのかというと、それはAVですね。 AVのような激しい快感表現を見て「そこまで感じられない自分はおかしいのでは…」と思ってしまう。AVの刷り込みが基本になり、実際の自分の状況とのギャップで悩んでしまう。 今後、今よりも性教育が浸透してきても、学校では教えられない部分は残ると思います。その受け皿として、セイシルの存在は大きいと思います。 福田:私も前職が保健体育科教員ですが、学校で教えていいのか、ためらってしまうトピックはありました。 大人が「そんなことない」と思うことでも子どもには真剣な悩み 水野先生:男子中高生にすごく行き渡っているテクノブレイクって聞いたことありますか? マスターベーションしすぎると死ぬという伝説なんですけど、「嘘に決まっているだろ」と授業で言ったら、青い顔でスマホを持ってきて「先生!これがテクノブレイクで死んだ人間の画像です…!」って。(画像に映っているのは人間ではなく)人形なんですけど。 私が説明するまで不安に思いながら噂を信じていた子もいました。 福田:私たち大人が「そんなことあるわけないだろ」と思っていても、子どもたちは真剣に悩んでいたりしますよね。そういったところにまだまだ知識を届けなくてはならないなと思っています。 15歳頃を起点に他者を含めた性の悩みが増加 福田:年齢が上がるにつれ、自分自身の悩み(マスターベーションやからだのこと)から、他者ありきの悩み(セックス、避妊・妊娠など)の割合が増えていっています。こちらをご覧になって水野先生はどう思われますか? 水野先生:10代の前半くらいは、「自分の体がどうなっているんだろう」「自分は変じゃないか」といったことで悩みがちですが、15歳くらいから急カーブ。要するに人間関係の悩みということですよね。 性の問題は自分の心と体のこともありますが、人間関係が基盤にあります。10代半ばになると精神面が成熟してきて、人間関係に基づく悩みが増えてきたということだと思いました。 福田:生理などの「自分の体に関する疑問」は調べて自分の中で解決すれば終わりですが、セックスなど人間関係が絡むと自分だけでは解決できませんもんね。そういったところに意識が向き始めるということですね。 また、「TENGAだから投稿される内容にマスターベーションが多いのか」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、もちろんその側面はあると思います。一方で、悩みを見ているとマスターベーションについて、同じ目線に立って真正面から向き合ってくれる場所というのがこれまでなかったのかなとも取れます。 水野先生:中学校・高校で呼ばれて外部講師として授業をして、その際に無記名で質問を募ると、マスターベーションの悩みが寄せられます。 福田:受け止めてくれるだろう場所に子どもたちは悩みを打ち明けるということですね。 投稿年齢は義務教育前後で変化「はどめ規定」の影響? 福田:続いて、全体的に見た相談室にモヤモヤを投稿した「年齢層」についてですが、セイシルでは12〜13才の中学1年生が多いことがわかりました。中学生に上がるこの時期から性の悩みや疑問を抱えやすいのかなと私は思ったのですが、このデータをご覧になって、水野先生はどう思われましたか? 水野先生:心と体が大きく変化する思春期に入ってきている中学生に上がる時期から悩みが増えてきやすいですね。 そうすると、(16歳以降も)増えていっても良いように思いますが減っています。これは、義務教育とそれ以降でわけて考えると納得がいくのかなと。 義務教育段階では、性に関する指導を行った場合でも「妊娠に至る経過は扱わないこととする」といういわゆるはどめ規定があります。 はどめ規定とは… 文部科学省が定める、小学校・中学校で扱う指導内容を制限する規定のこと。 (例)小学校の理科:人の受精に至る過程は取り扱わないものとする 中学校の保健体育科:妊娠の経過は取り扱わないものとする はどめ規定は現場判断で「ないもの」にできる 水野先生:現場の先生方では「義務教育でははどめ規定があるからセックスのことを教えちゃダメなんだよね」という認識が強いと思います。 悩みの投稿件数が16歳以降で減る理由は、下記ではないでしょうか。 はどめ規定がなくなる高校生以降は保健体育で性交等を学習する 友だち同士での情報交換の機会が増える ネット情報にもこれまで以上にアクセスしやすくなる ただ、性交そのものを教えることは高校でもまだまだ少ないでしょうね。 とはいえ、高校生になれば性交同意年齢(16歳)を超えた生徒たちがいて、性的な行動も活発化しますので、「性交について何とかして適切に対処(指導)しなくては」と考える先生の割合が増える点も違いとしてあるのではと思います。 保健体育の学習指導要領では、「コンドームは性感染症予防に有効であることを教えましょう」となっています。でも、性交は教えられない…。手品…? 福田:手品ですね。感染経路を教えられないわけですから。 水野先生:ただ、実は文部科学省ははどめ規定について、「教えちゃいけないということではなく、学校長次第で(現場の裁量で)個別の質問に答えるのはOKですよ」としています。ただしこのことはあまり知られていなくて、現場では「セックスについては教えてはいけない」と考えている先生が圧倒的に多いでしょう。学校長が現場に対して「必要だからやってください」と言えば、はどめ規定の制約は解除できるということは知ってほしいですね。 性教育は義務教育段階から必須の教養 水野先生:第1部で鈴木えみさんもおっしゃっていましたが、国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは、「性教育は5歳から始めましょう」とカリキュラムが組まれていますが、ヨーロッパにおけるセクシュアリティ教育ガイダンスは0歳からがスタンダードです。0歳からというと、非常に狭く特殊に捉えて「0歳からセックスを教えるのか?」と思う人がいるかもしれませんがそうではないです。性というのは、体と心全てですから、体を大事にする、清潔にする、丁寧に扱う、自分の体に他人が触れることに対して抑制的にする、逆に他者のことも尊重するという部分が性教育の始まりなので、早くから始めていくのが良いと思います。性交について教えるのは、10歳くらいが良いのだろうと考えていますが、「自分の身体は自分だけがコントロールできるものである」という体の権利のことは5歳からやっていけば良いと思います。読み書きそろばん情報操作、歴史認識、社会の仕組みと並んで人間の絶対必要な教養だろうと私は思います。 福田:本当にそう思います。交通安全教室、情報モラル、たばこや薬物などの防止教育はあるのに、性教育は必須にはなっていなくて、もっともっとやっていくべきだなと思いました。 「悩みを抱えたまま成長した大人たち」が今、どうなっているか 福田:悩みを抱えたまま、解決せずにいる大人は少なくありません。ここまで子どもたちの話をしてきましたが、大人はどうかというと、自分自身振り返っても性教育らしいものは受けた記憶がなく、大人になってからもその機会はありませんでした。そのあたり、水野先生はどう思われますか。 ...
【活用事例】「デートDVチェッカー」活用5事例を紹介
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デートDVは、恋人同士で起こる暴力を指します。特に若い世代において、デートDVの存在を知り、早期に気づくことが重要です。 そのために制作したセイシルの「デートDVチェッカー」は、デートDVについて知り、自分自身やパートナーとの関係を振り返るきっかけを提供する教材として、多くの場で活用されています🌈 今回は自治体や大学を中心に、全国での「デートDVチェッカー」活用事例を5つご紹介します。これらの事例から、デートDV啓発活動の参考にしていただければ幸いです。ぜひ実際の取り組みの様子をご覧ください✨ ① 越谷市男女共同参画センターでの展示 越谷市男女共同参画センター「ほっと越谷」では、地域住民を対象としたデートDVの啓発展示を実施しました。 近隣の自治体の相談窓口の情報と一緒に、「デートDVチェッカーのトリセツ」のチラシを掲示されています。 同時に近隣の相談施設を知ることで、身近なサポートを感じられるので、とても良い掲示ですよね! 展示期間は、期末考査や共通テストの勉強をするため、学生の来所者が増える11月中旬から12月中旬の期間を予定してくださいました。多くの若者の心身の健康のサポートになれば嬉しいです! ② 茨城県庁のエイズデー展示 茨城県庁で行われたエイズ予防キャンペーンでは、性感染症(STI)予防とともに、若年層のデートDV防止にも焦点が当てられました。 クリスマスに合わせた展示が目を惹きますね!🎄展示の中で、TENGAのコンドームと啓発冊子、セイシルカードとともに、「デートDVチェッカー」が配布されました。 エイズ・性感染症予防というテーマの中で、恋愛関係の健康さや安全性を考えるきっかけを提供した事例です。 「来庁された県民の方が立ち止まり、啓発物品をお持ち帰りいただく姿を見られ、県民のみなさまに正しい知識の普及啓発が行えた」と担当の方からコメントもいただきました! 茨城県庁では昨年もご配布くださいました。 昨年はこちら ③ 昭和女子大学のゼミ活動で新宿駅で配布 昭和女子大学 人間社会学部 現代教養学科 の木村教授のゼミ生の方々が、デートDVに関する研究の一環として「デートDVチェッカー」を新宿駅で通行人に配布しました。 デートDVチェッカーの説明をしながら配布した様子や、配布した学生さんたちの感想が、昭和女子大学のゼミ活動報告で紹介されているので、ぜひご覧ください。性別に関係なく、幅広い世代に受け取っていただけたとのことでした! 木村教授は、実際に他者に理解してもらうことの重要性や難しさというものを学生に体験して欲しくて今回新宿駅で配布することを決められたそうです。夏の暑い時期のご配布、ありがとうございました❣️多くの人にデートDV防止の重要性に気づいてもらえたら嬉しいです。 ④ 筑波大学園祭での配布 筑波大学学園祭の産婦人科ブースにて、アンケートに参加いただいた方に、生理用ナプキンかコンドームと一緒にセイシルのクイズカードが配布されました。 「デートDVチェッカー」はブースで自由に持ち帰れるようにしていただき、"面白い"とカップルや夫婦に人気だったとのことです。 男性にも気軽に来場いただけるような企画にしたとのことで、2日間で1000人の来場者のうち、4分の1が男性だったようです。やはり男性だと「産婦人科」に対するハードルは高いと思うので、今回のように「ふらっと」足を運べて、生理についてなど知っていただく機会があるのは素敵なことですね! この企画はyahoo!ニュースでも紹介されていますのでぜひご覧ください。 ⑤ 大阪公立大学の学園祭「ユースクリニック」で配布 大阪公立大学では、学園祭中に地域の産婦人科医の方を招き、ユースクリニックである「ユースカフェ」を設置しました☕️ その中で「デートDVチェッカー」を人通りの多い廊下にて配布していただき、恋愛関係に関する相談や悩みについて話し合うきっかけが生まれました。 ユースクリニックでは、ピルのオンライン診察・処方サービスでおなじみの「スマルナ」さんも招いていて、生理痛体験をすることができたり、性に関する本の紹介や、学生オリジナルのクイズが掲示されていたりと、盛り上がっていました👏 今回のユースカフェを企画した学生の一人、髙橋琉樹さんからは「(ユースカフェに対して)こういうのもあるんだーという反応が多く、特に50~60代の方は感心されていたと思う。また、デートDVチェッカーはカップルで見ながら話している人たちも多かった。今後も学園祭に限らず、こういった場を設けて活動していきたい。」というコメントをしてくれました🎵 上記の事例は、全国各地で「デートDVチェッカー」がどのように活用されているかを示す一例です。これらの活動事例を通じて、具体的な雰囲気や取り組みの様子を感じていただけると思います。ぜひご自身の地域や活動に取り入れていただき、デートDV防止の輪を広げていきましょう‼️