
性教育をアップデート!国際セクシュアリティ教育ガイダンスを学校でどう活かすか
投稿者 : on
性教育とは、単に生理や性行為などについて学ぶだけでなく、個人の権利、尊厳、相互の関係に関する重要な価値観や考え方を深く学ぶことを目的としています。
近年、世界中で性教育が重要視される中、国際的なガイダンスがどのように形成され、実践されているのかに注目が集まっています。
国際セクシュアリティ教育ガイダンスとは
性に関する健康的な知識と社会的な価値観を育むために、ユネスコやWHOなどの国際機関が提供する指針です。
このガイダンスは、単に生理的な理解を超え、ジェンダー平等、性的多様性、同意の重要性、性暴力の予防など、さまざまな側面を含んでいます。
https://www.akashi.co.jp/book/b612128.html
8つのキーコンセプトとは
国際セクシュアリティ教育ガイダンスに含まれるキーコンセプトは次の通りです:
1. 人間関係(Relationships)
家族・友情・恋愛など多様な人間関係を通じて、尊重・共感・対等性を学びます。健全な関係を築くためのコミュニケーションや対処スキルも重視されます。
2. 価値観・人権・文化・セクシュアリティ(Values, Human Rights, Culture, and Sexuality)
性に関する多様な価値観や文化を尊重し、人権・自己決定・情報へのアクセスの大切さを学びます。文化や宗教が性に与える影響への理解も含まれます。
3. ジェンダーの理解(Understanding of Gender)
性自認・性的指向・ジェンダー・ロールの多様性を理解し、偏見や差別を超えて自己と他者を尊重する力を育みます。平等と包括性も中心テーマです。
4. 暴力と安全確保(Violence and Safety)
性暴力やハラスメントを含むあらゆる暴力に対処する知識と、自己や他者の安全を守るスキルを学びます。ネット上のリスクにも触れます。
5. 健康とウェルビーイングのためのスキル(Skills for Health and Well-Being)
心身の健康を保つための意思決定・ストレス対処・批判的思考などの実践的スキルを習得します。リスク回避や自己ケアの力も育てます。
6. 人間のからだと発達(Human Body and Development)
思春期や加齢に伴う身体・感情・社会的な変化について学び、自分の体とその発達を理解し、個人差を尊重することを目的とします。
7. セクシュアリティと性的行動(Sexuality and Sexual Behavior)
性的同意・避妊・性感染症予防などに関する情報を提供し、責任ある行動を選択できる力を育てます。
8. 性・生殖に関する健康(Sexual and Reproductive Health)
生理、妊娠、避妊、STIsなど性と生殖に関する健康の基本を学び、必要な医療や支援サービスにアクセスする力を育みます。
日本でガイダンスを活用する方法
国際セクシュアリティ教育ガイダンスを日本の小中高等学校で活用するためには、年齢に応じた適切な内容と方法で教育を実施することが求められています。
小学校:感情と身体の気づきを育てる時期
小学生は、自分の身体や気持ちについての「気づき」が芽生える時期です。
この段階では、性教育の“入り口”として、身体や感情の理解、そして他者への思いやりを学ぶことが大切です。
活用方法と具体例:
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身体と性の健康:
→ 「赤ちゃんはどこから来るの?」という素朴な疑問に答える授業で、男女の体の違いを伝える。絵本や図解を使ったワークが有効。
→ 「プライベートゾーンとは?」というテーマで、身体を守る意識を育てる。 -
感情の表現と尊重:
→ 「うれしい・悲しい・いやだ」などの感情を言葉で表す練習を通じて、自己表現と他者への共感を育む。
→ 例えば「いやって言ってもいいんだよ」というロールプレイを取り入れる。 -
ジェンダー平等:
→ 掃除当番や遊びの中で「男だから/女だから」という固定観念を取り払う取り組みを。
→ 例:「男子も人形遊びしていい」「女子も虫とりが好きかも」などの発言を肯定する教師の姿勢が鍵。
中学校:変化と選択に直面する思春期
中学生は身体的にも心理的にも大きく変化する時期であり、自身の性に関する悩みや疑問も多くなる段階です。
ここでは知識の提供だけでなく、正しい判断力を育てる教育が求められます。
活用方法と具体例:
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身体と性の健康:
→ コンドームやピルなど避妊法、性感染症の基礎知識を授業で扱う(教科としては保健体育が中心)。
→ 「性行為における責任って?」をテーマにしたグループワークや映像教材の活用。 -
ジェンダー平等と性的多様性:
→ LGBTQ+の存在や権利について、実在のストーリーや動画を通じて学ぶ。
→ 「自分の性に迷うってどういうこと?」という問いに対して、安心できる場で意見を共有する。 -
同意と関係性のスキル:
→ 「同意とはどういうことか」やデートDVに関してペアワークで学ぶ。例:デートの誘いを断られたときの対応をロールプレイで体験。
高等学校:自立と社会性が問われる段階
高校生は、恋愛・セクシュアリティ・進学や就職といった将来を見据える時期。
より現実的で社会的な性の課題にも向き合う必要があります。
活用方法と具体例:
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身体と性の健康:
→ 避妊や性感染症に関する最新の医療情報を扱う。ピルの処方や検査の受け方などを具体的に紹介。
→ 「性行為にYESと言えるのはどんなときか?」を自分の価値観に照らして考える個人ワーク。 -
ジェンダー平等と法的視点:
→ 「性暴力はなぜ起こるのか?」を社会構造と関連づけて学ぶ。加害・被害・傍観の視点を持つワークも有効。
→ 痴漢・リベンジポルノ・同意年齢など、身近な法的テーマをケーススタディで考える。 -
性的多様性の理解:
→ トランスジェンダーやアセクシュアルなど、より多様な性のあり方を知る。
→ 校内でのジェンダー配慮(制服・トイレ・呼称など)を生徒主体で考えるプロジェクト型学習も。
日本における性教育の現状とこれからの課題
日本でも性教育の大切さが少しずつ広まりつつありますが、まだ課題が多く残っています。学校で教えられているのは、生理や妊娠など“からだのしくみ”が中心で、恋愛や同意、感情の扱い方といった、日常に近いテーマにはあまり触れられていません。
LGBTQ+など性の多様性についての教育もまだ足りないのも現状です。「自分はみんなと違うかも」と感じる子が、安心して過ごせる場が少ないことも問題です。
しかし、最近ではLGBTQ+の授業や、専門家による性教育の出前授業など、学校において新しい取り組みも広がってきました。性教育が「恥ずかしいもの」ではなく、「自分を大切にする学び」として受け入れられる時代が近づいています。
包括的な性教育の実現に向けて
性教育は単なる知識の習得ではなく、自分自身と他者を大切にし、尊重し合う社会をつくる基盤となるものです。
日本でも、子どもたち一人ひとりが安心して自分を表現できるよう、年齢に応じた、偏りのない包括的な性教育の実現がこれからの鍵となるでしょう。
国際セクシュアリティ教育ガイダンスをもとに、年齢や背景に応じた柔軟な実践を通じて、子どもたちの“生きる力”としての性教育が日本でも根づいていくことをセイシルは期待しています。