日本の性教育の歴史を紹介!今後の課題とは?

日本の性教育の歴史を紹介!今後の課題とは?

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現代は、ネットやSNS、Youtubeなどさまざまなところで性に関する情報が得られます。

調べれば情報にたどり着けるのはとても便利な反面、誤った情報を取り入れてトラブルに遭う危険性もあります。

日本の学校の「性教育」は、正しい知識を身に着けるために十分と言えるでしょうか。

今回は「性教育」に関する歴史を紹介します。歴史を知ることで、さらに性教育の重要性を感じていただければ嬉しいです。

 

日本の性教育はいつから始まった?

日本でも古くから性に関する話は親から子、年長者から年少者など人から人へ伝えられてきました。

人々は、そのように人から聞いた内容をもとに、セックス、妊娠・出産、避妊や中絶に関する知識を身に着けてきたと考えられます。

また、江戸時代では、性交場面を描いている「春画」も性に関する情報を得るものの一つだったようです。

しかし、学校で教育として教える「性教育」といったものはなく、本格的に性教育が始まったのは近年のことでした。

 

1992年「性教育元年」小学生から性教育をするように

1992年は「性教育元年」とも呼ばれ、小学校からの性教育が本格的に始まります。小学校や中学校での性教育に使用する授業書も発行されました。

同年、厚生労働省所管の財団法人母子衛生研究会が「ラブ&ボディBOOK」を作成・発行しました。中学生を対象に作られており、無償配布をした性教育用教材の一つです。

ラブ&ボディBOOKは、コンドームの装着方法、性的同意、性被害に関しても記載されていて、当時の日本では非常に画期的な内容でした。

しかし、ピルについては長所のみの記載で、服用によって悪影響が出る可能性については言及していなかったことや、教材の内容に対し「未成年にピルを勧め、フリーセックスをあおっている」といった批判がでたことによって、2002年に絶版し回収されています。

現在、この教材を身近に見ることはできません。


2003年「性教育バッシング」七生養護学校事件が起きる

1992年から発展し始めた性教育ですが、2003年には「性教育バッシング」が起こります。

東京都立七生養護学校(現・七生特別支援学校)が知的障害を持つ生徒に行っていた性教育を都議会議員が非難し、教員が処分されるという事件が起こりました。


自分の身体を正しく守るために必要な「こころとからだの授業」が非難される

七生養護学校では、思春期を迎えて、自分の体や心の変化に戸惑う生徒に向けて、自分の身体を正しく守り、性に関するトラブルを防ぐために「こころとからだの授業」を実施していました。

生徒にわかりやすく伝えるために、月経や精通、避妊方法や性器の洗い方などについて、歌や人形教材キットを活用して授業を行っていました。

最近では、七生養護学校の子どもたちに愛された歌が、みんなで楽しめる絵本として出版されています。

〈参考〉絵本 からだうた

しかし、都議会議員はこのような授業を「過激な性教育」と非難し、都の教育員会が「不適正な性教育」「不適正な学級編成・服務」といった理由で、七生養護学校の校長の降格をはじめ116人の異例の処分を強行しました。

 

「性教育の手引き」が改訂され、性教育バッシングが続いた

事件の翌年2004年には、都の教育委員会が「性教育の手引き」を改訂。

小学生から高校生までの学習指導要領で、性交渉に関する内容を扱わないとし、「性教育バッシング」が続きました。

七生養護学校へのバッシングを行った都議会議員はその後、2013 年の最高裁判決で原告となった七生養護学校の教員に賠償金を支払うことが確定しています。

裁判では「学習指導要領は、おおよその教育内容を定めた大綱的基準であり、記載されていない内容を子どもたちに教えることが、ただちに違法とはならない」とされました。

2004年以降で「性教育の手引き」は未だに改訂されていませんが、2013年の最高裁判決等を利用して、「性教育はただちに違法とはならない」ことを念頭に、実践の幅を広げていくことが重要だといえるでしょう。


現代の「性教育」について

性教育バッシングから約20年・・・。

この期間は「性教育のネグレクト」「失われた20年」とも言われています。

さて、20年が経過した今、性教育はどのように変わっているのでしょうか。

 

2021年「生命の安全教育」がスタート

2021年には政府が策定した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」をもとに「生命の安全教育」への取り組みが始まりました。

生命の安全教育は、全国の学校で実施が進められ、幼児期から大学、一般、特別支援教育までが主な対象となっています。

性暴力について学び、自分や相手、他者を尊重する態度などを身に付けることを目指します。

詳しい内容は下記で紹介しているのでぜひ、あわせてご覧ください。

〈参考〉【性教育お役立ちコラム】生命(いのち)の安全教育とは?子どもを性犯罪・性暴力から守るために今できること


「フェムテック商品」「性教育書籍」も増加中

日本において、「性」への関心が高まってきています。

2021年の流行語大賞にもノミネートされた「フェムテック」は、女性の健康課題をテクノロジーで解決へ導く製品やサービスを表します。

生理用品も多様化し、吸水ショーツ、月経カップなど、生理中のナプキンやタンポンを使用する以外の選択肢も増えています。

また、こうした世の中の動きと合わせて、性に関するトラブルに対して保護者の関心も高まったことから「性教育書籍」も多く出版されています。

セイシルでも、10代に向けた性教育バイブル「セイシル本」を発売中です。ぜひこちらもご覧ください。

〈参考〉セイシル 知ろう、話そう、性のモヤモヤ 10代のための性教育バイブル


性犯罪に関する法律が改正・新設

2023年7月には、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が改正、施行されました。

性交同意年齢は13歳から16歳となり、性犯罪の公訴時効期間は5年間の延長となっています。

その他にも、性的姿態等撮影罪などの法律が新設されるなど性犯罪に関する法律の改正・新設がありました。

〈参考〉性犯罪関係の法改正等 Q&A


「はどめ規定」がある限り性行為は教えられない?

ここまで日本の性教育の歴史を紹介してきましたが、実は日本の学習指導要領には、指導範囲を定める「はどめ規定」と呼ばれるものがあります。

性教育におけるはどめ規定とは、例えば中学校の保健の学習指導要領で「受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」とする一文のことです。

一律に指導する内容としては取り扱わないが、状況に応じて個別に指導することは可能とされています。

しかし、2023年10月30日、西日本新聞加盟の日本世論調査会がまとめた「子どもの安全」を巡る全国郵送世論調査によると、「はどめ規定」をなくすべきだとの回答は88%に上ったとのことでした。

なくすべきだとする理由は「正しい知識を得られるから」が44%と最多で、性に関して正しい知識を持つことによって、自分や他者の身を守れると考えている方が増えていることがわかります。

〈参考〉妊娠の経過「学校で教えるべき」88% 性教育の開始時期「小学校高学年から」52%


今、求められる学校性教育の課題

日本の学校性教育は、性教育バッシングを経て、再び動き出している段階です。

今求められる性教育の課題としては、「はどめ規定」の撤廃や「性教育の手引き」の改訂など、国際標準の包括的性教育(国際セクシュアリティ教育ガイダンス)をもとに学習指導要領を見直し、整備することでしょう。

そのためには、管理職を含む教職員、保護者、地域の一般の方も包括的性教育について知り、学校での性教育への理解を深めてもらうことが大切です。

 

学校性教育の課題を解決するためには

例えば、セイシルでは性教育指導に関するオンラインセミナーを実施しています。

〈参考〉セイシルオンラインセミナー「どう教える?デートDV」開催のご報告

このようなセミナーを活用して、学校全体、保護者の方にも参加いただきながら性教育について検討するのも良いかもしれません。(実際に、とある高校の教員研修にご活用いただきました。)

また、性教育を実際に実施してみて、授業を受ける生徒本人から感想や意見をもらうことで、性教育を推進する背中を押してもらうことができます。

高校生に向けた性教育の授業の様子は、下記にて紹介しています。

〈参考〉「友達関係も当てはまるの?」高校生がデートDVチェッカーを使用した感想をご紹介

性教育を通じて、若者たちは自分の身体を正しく守る方法を知ることができます。

ぜひwithセイシルの記事や教材も性教育に役立てていただけたら幸いです。


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