【性教育お役立ちコラム】生命(いのち)の安全教育とは?子どもを性犯罪・性暴力から守るために今できること
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2023年(令和5年)から全国の学校で、本格的にスタートした「生命(いのち)の安全教育」。
今回は生命(いのち)の安全教育とは何か、内容、いつからどのように行われるものなのか詳しく解説します。
生命の安全教育とは?
出典元:文部科学省「生命(いのち)の安全教育」
生命の安全教育とは、政府が令和2年6月に策定した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を踏まえ、子どもや若い世代が性被害の被害者、加害者や傍観者にならないために始まった取り組みです。全国の学校を対象に、推奨されています。
生命の安全教育の必要性
出典元:警視庁「なくそう、子供の性被害。」
児童買春や児童ポルノの製造などの子どもの性犯罪被害は減らず、中でもSNSに起因する被害数は増加傾向です。
性教育を通じて、自分の体の仕組みや性に関する知識を身に付けるとともに、子どものうちから自分や他者との関わり方、性被害や性暴力について学ぶことは、子どもが性被害の被害者・加害者・傍観者になるのを防ぐことにもつながります。
生命の安全教育の内容
生命の安全教育の内容は、性犯罪・性暴力を防ぐために必要な「自分・相手の身体を大切にすること」「性暴力が起きないようにするための考え方・態度」「性暴力の被害にあったときの対応方法」を中心に学びます。[1]
保健体育で学ぶ「自分の体の変化・健康管理について」に重きを置いた内容とは異なります。
また、生命の安全教育では、発達段階に合わせて、SNSの使い方やデートDVについても記載されています。実際に今問題となっている性犯罪・性暴力についても考える内容です。
生命の安全教育で取り組む内容については、文部科学省と内閣府が連携し、有識者の意見も踏まえて作製された「生命(いのち)の安全教育のための教材及び指導の手引き」をもとに行います。
出典元:文部科学省「生命(いのち)の安全教育」
具体例を用いて、考えるべきポイントや嫌な気持ちになったときの対象方法が紹介されているので、指導側も授業を受ける側も、教材を見るだけでどのように自分や相手を大切にすると良いのかがわかりやすいです。
生命(いのち)の安全教育動画教材(中学校)
生命(いのち)の安全教育動画教材(高校)
また、「生命の安全教育」指導の手引きには、以下についても記載されています。指導者にとっても、事前準備や子どもへの対応に悩んだ時に参考になるポイントです。
- 子どもへの指導の上で配慮すべき点
- 保護者への対応
- 児童の相談の解決が難しい場合に相談すべき相談機関
生命の安全教育はいつからどのように行われる?
生命の安全教育は、令和3年4月より、文部科学省から教材・手引きが発表され、令和5年からは本格的に取り組みが始まりました。
全国の学校で、幼児期から大学や一般、特別支援教育までが主な対象です。以下のように、発達段階に応じてねらいを設け、それぞれに合わせた内容で指導を進めていきます。
発達段階 |
ねらい・目指すポイント |
幼児期(5~6歳) |
幼児の発達段階の中で、自分と相手の体を大切にできるようになっていく |
小学校 低・中学年 |
自分・相手の体を大切にする態度を身に付けるようになる 性暴力の被害に遭ったとき等に、適切に対応する力を身に付ける |
小学校 高学年 |
自分・相手の心と体を大切にすることを理解し、よりよい人間関係を構築する態度を身に付ける 性暴力の被害に遭ったとき等に、適切に対応する力を身に付ける |
中学校 |
性暴力に関する正しい知識を持ち、性暴力が起きないための考え方・態度を身に付ける 性暴力が起きたとき等に適切に対応する力を身に付ける |
高校 |
性暴力に関する現状を理解し、正しい知識を持つことができるようになる 性暴力が起きないようにするために自ら考え行動しようとする態度や、性暴力が起きたとき等に適切に対応する力を身に付ける |
特別支援教育 |
障害の状態や特性及び発達の状態等に応じて、個別指導を受けた被害・加害児童生徒等が、性暴力について正しく理解し、適切に対応する力を身に付ける |
学校や地域の状況に合わせて適宜内容の加除や改変を行った上での使用も可能です。
また、「生命の安全教育」の授業内に限らず、必要なシーンに応じて教材を使用しても良いとされています。(例:プールの授業の前にプライベートパーツに関する内容を共有するために教材を使う)
生命の安全教育と合わせて知りたい「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」
子どもたちは、生命の安全教育を通じて、生命の尊さや、自分や相手を尊重することの大切さ、性暴力の被害にあった時の対応方法を学びます。
しかし、残念ながら生命の安全教育だけでは性犯罪や性暴力を無くしていくことはできません。同時に、犯罪から子ども・若い世代を守る対策方法の強化も必要です。
現在、文部科学省が進めている「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」の取り組みとして、以下の「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」があります。一部を紹介します。
- 日本版DBS導入の検討※
- 保育所等における虐待防止のため、児童福祉法改正を検討
- 小学生・未就学児等を対象にしたプライベートゾーン等の啓発キャンペーン活動
- 男性・男児のための性暴力被害者ホットライン開設予定
- 文化芸術分野における相談窓口を設置 (弁護士が契約やハラスメントを含むトラブル等に対し助言や関係機関の紹介等を行う)[2]
DBSとは、英国内務省が管轄する「Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)」のことです。個人の犯罪歴をデータベースで管理し、就職する際に必要に応じて証明書が発行できます。
イギリス・ドイツ・フランスですでに導入されており、日本では、子どもに関わる職業を対象に、性犯罪の前科がないかを事前に確認できるように政府で検討が進められています。
子どもを性被害・性暴力から守るためにも、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針の強化」「生命の安全教育の推進」をともにしっかりと進めていく必要があるといえるでしょう。
セイシルでも「生命の安全」を考える記事を発信中
セイシルは、10代の性の悩みにこたえるwebメディアです。
恋愛・セックス、体のこと、妊娠・中絶、避妊、性感染症、多様な性、マスターベーション、性暴力などさまざまなお悩みに関して、実際に学生から寄せられた相談内容をもとに、専門家や医師が回答をしています。
セイシルの「性暴力」のカテゴリーでは、性的同意やデートDV、セクハラについて、痴漢にあったときの対処法などを紹介しています。
生命の安全教育の中で、「生命の安全」「性被害・性加害」について考える題材としてもぜひご活用ください。
参考文献
[2]男女共同参画局「性犯罪・性暴力対策」