【性教育実践インタビュー】現場の声から考える性教育 星野貴泰さんに聞きました!

【性教育実践インタビュー】現場の声から考える性教育 星野貴泰さんに聞きました!

投稿者 : on

性教育をより良くしたい──。そんな思いで現場に立ち続けている方たちの取り組みを紹介する、【性教育実践インタビュー】シリーズ。

第2回となる今回は、手術看護師で性教育歴16年の星野貴泰さんにお話を伺いました。

ご自身が性教育に興味を持ったきっかけ、授業後の生徒へのアフターフォロー、外部講師として授業先の先生とのやりとりの工夫、そして星野さんが立ち上げた性教育コミュニティ「kokoro color」の活動まで、たっぷり語っていただきます。

インタビュアーは、セイシルを運営する福田です。
現場のリアルな声と実践方法を参考に、ぜひ一緒に性教育を考えていきましょう。

 

性教育に興味を持ったきっかけは遠見先生

福田:まず、性教育に興味を持たれたきっかけと経歴から教えてください。

星野:私は群馬県のすごく田舎の出身で、最寄りの電車の駅がなくてバスが1時間に1本あるかないか、みたいな地域です。
2007年、高校3年生のときに、その田舎の高校へ当時医学生だった「えんみちゃん」が性教育の講演会に来てくれたんです。

福田:なんと遠見才希子先生(現 産婦人科医)が星野さんの高校に!

星野:そうです。当時、私は保健委員長をやっていて、もともとHIV/AIDSへの興味関心はあったんです。
でも、性教育が予防に不可欠だという思いはあるけれど、学ぶ機会がなくて。

そんな中でえんみちゃんの講演を聞いて、「今まで聞いた性教育と全く違う」と衝撃を受けました
そこから「自分もこういう活動をやりたい」と思ったのが一番のきっかけです。

福田:それで進路も変わったんですか?

星野:はい。もともとは高校卒業後、農家になる予定だったんです。
でもそれをやめて看護師の大学に進学しました。
「大学に行ったら性教育の活動をやろう」って決めて。

福田:すごい転機ですね!


〈当時、医学生の遠見先生と高校生の星野さん〉

星野:当時の群馬県には、エイズ予防講演会推進事業という事業があって、医師が来ることが多かったんです。
スーツにネクタイで、いわゆる“禁止教育”的な内容が多かった。

でもえんみちゃんの講演はそれと真逆で、それが私が「やりたい」と思う決定打でした。

福田:その予算の中で医学生の遠見先生も呼ばれたんですか?

星野:後から予算の中だと聞きました。
当時、養護教諭の先生が思春期学会でえんみちゃんの活動を知って、「呼んでみよう」と思って呼んだそうです。
えんみちゃんが群馬県に来るのは初めてでした。

福田:そこで星野さんが、たまたま講演を聞いていた。

星野:そうなんです。あとそのとき「水の交換ゲーム※」をやるってなって、最初の1人に私がなったんですよ。
えんみちゃんとコミュニケーションを取りながら参加して、講演後に少し話して。

翌年、大学に進学してからAIDS文化フォーラム(横浜)でえんみちゃんに「看護師になるために大学に進学しました。性教育をやるために来ました」と伝えたら、「頑張ってね」って言ってくれて。
以降も仲良くしてくれます。

福田:すごい・・・!それがきっかけだったんですね。

星野:そして2010年、大学3年生のときに初めて性教育の講演に呼んでもらえるようになりました。
最初は「大学卒業したら辞めるんだろうな」と思っていたけど、ありがたいことに依頼が続いて、今も続けています。
気づけば講演歴16年目になりました

※水の交換ゲーム・・・性感染症の広がり方を体験的に学ぶワーク。参加者がコップの透明の水を数人と交換し、それを性的接触に見立てる。その後、薬品を入れて色の変化を見ることで、最初は少数でも接触を通じて感染が広がることを理解する参加型の活動。


“聞いて終わり”ではない、性教育が広がった瞬間

星野:しかもありがたいことに、私の講演を聞いて「性教育をやりたい」と言ってくれる子も実際にいて。
私が高校へ講演に行ったときに生徒だった子が、のちに私の大学の後輩になって、性教育の講演をするようになったこともあります。

福田:そのバトンがまた繋がっていくなんて!

星野:あとは性教育コミュニティ「kokoro color(後ほど紹介)」に入ってくれた人が、自己紹介で「高校生のときに星野さんの講演を聞きました。一般企業に勤めていますが勉強したくて入りました」って書いてくれたり。
自分の言葉が届いているのか不安なこともあったけど、受け取って動いてくれる人がいるのは嬉しいですね。

〈性教育講演の様子〉

福田:そういう“後から返ってくる反応”は大きいですね。

星野:そうなんです。アンケートで「満足」と書かれても、その後の人生でどう活きたかは分からない。
性教育って効果指標が見えにくいからこそ、「活動するようになった」とか「学び続けてくれている」っていうのは、自分の授業の効果のひとつの指標になるなと思っています。


忙しい日々の中でも続く、性教育への情熱

福田:今は看護師をされながら性教育を、ということですよね。

星野:はい。手術室看護師として働いて13年くらいです。
でも性教育の講演歴は16年なので、看護師歴より長いですね。

〈手術看護師として学会に参加する星野さん〉

福田:忙しい中、どうやって時間を捻出しているんですか?

星野:以前は年1〜2回の講演だったので割と余裕を持って講演をしていましたが、今はありがたいことに増えてきて、月1回の年休をとって「午前1件・午後1件・定時後1件」みたいに詰め込んだりしていました。

福田:なんて多忙なんでしょう…!

星野:世の中には性教育を仕事でやっている人もいて、年間何百回と講演をしている人と比べたらずっと少ないんですけどね。
それでも資料作りは、仕事の合間や帰宅後に少しずつ少しずつやっています

最近は執筆依頼や論文の査読依頼も来るので、昼休みにメール返したり、帰宅後にご飯を作って、子どもとお風呂入って、寝かしつけは家族が担当してくれるので、その後に続きを作ったり。

〈性教育と同じく夕飯作りにも奮闘していることがわかるインスタの投稿〉


Instagramまでが授業の一貫

福田Instagramもよく更新されていますよね。

星野:講演が決まったら講演の参加者に事前質問をアンケートで集めます。
講演内でも答えるけど、時間が足りないので、「インスタ見たら詳しく載ってるよ」と案内してます。

だから講演前に更新が増えますね。

〈講演質問のInstagramの投稿例〉

福田:なるほど、Instagramで子どもたちの質問に答えているわけですね。 
自分の質問が投稿で取り上げられると、生徒も嬉しいですよね。

星野:そうですね、「自分の質問を答えてもらえてうれしかった」という感想があります。生徒数が多くない学校も多くて、質問数もそこまで多くないので、いただいた質問は全部回答するようにしています。
10個来たら10個全部。


安心して聞ける性教育の授業づくり:前提に話すべきこととは?

福田:他に工夫されている点はありますか?

星野:最初に必ず言うのは、「今日の話を聞きたくない人がいるかもしれないけど、無理して聞かなくてもいい」ということです。
“絶対に聞かせる”スタンスじゃない、と最初に示します。
苦手な人を否定せず、安心していられる空間を作ることが大事だと思っています。

それから前提として、まずバウンダリー(境界線)とプライベートゾーン/プライベートパーツの話
その後、どの授業でも必ずセクシュアリティの話をします。

福田:必ず入れているんですね。

〈授業の初めにセクシュアリティの話をしている様子〉

星野異性愛前提の話だけにならないように、「セクシュアリティはみんなに関係ある話」として伝えています。
事前質問でもセクシュアリティに関する質問が昔より増えていて、「自分はゲイなんだけど」「ジェンダーフルイドだと思う」などが来ます。
書くほどではないけどモヤモヤしている人も、最初にその話を聞くことで「自分が抱えてたモヤモヤはこれなんだ」と気づくきっかけになることがあるので、この順番にしています。


リアルな経験が子どもたちの心を動かす

福田:先生方や生徒からの反応で、特に評価される点は?

星野:よく言われるのは「身近な経験談があるから自分ごととして捉えられていたのが分かった」です。
病院の話をそのまましても自分ごとにならない子もいるので、子どもたちの年齢に近いケースを話します。
例えば、お腹が痛いと救急搬送された17歳の女の子が、検査したら妊娠36週だった、みたいな話をすると一気に引き込まれることがある。
あとは講演後に養護教諭の先生から「実は先週、今日講演を聞いた生徒の中で中絶をした子がいた」と言われたこともあります。
14歳の女の子で、相手も14歳。妊娠に気づいたのは母親だった、など。

〈星野さんの話を興味津々に聞く学生たちの様子〉

福田:現場のリアルですね…。

星野:そして「難しい話をするのかと思ったけど、分かりやすかった」とも言われます。
それは手術室看護師として、看護学生に教える中で「難しい言葉を使わず噛み砕く」訓練をずっとしてきたからだと思っています。


保護者にも届く、家庭でのヒントになる性教育

福田:保護者向け(PTAなど)の講演もされますか?

星野:あります。去年、中2の講演が授業参観日にあって、生徒向けの後に保護者向けもやりました。
保護者向けは15分で、性教育の本の紹介や、保護者の事前質問に答える内容でした。

〈保護者向けの講演会の様子〉

福田:反応はどうでしたか?

星野:保護者は全員ではないけど、20人くらい来てくれました。生徒60人に対して20人。
「性の話を子どもとどう話せばいいか分からなかったけど、淡々と話せばいいと分かった」とか、「姉と妹で女の子に挟まれた長男がいて、女の子っぽいから“男らしくなりなさい”と言ってしまった。反省した」という声もありました。
性教育の話だけのつもりでも、子育ての接し方のヒントとして受け取ってくれる方もいて、良かったです。


講演会までの準備の工夫

福田:学校の先生とのやり取りはどのようにされていますか?

星野:基本はホームページの依頼フォームから連絡が来て、メールで調整します。
本当は電話がいいけど、仕事中電話できる時間が少なくて…。

やり取りが増えるのが大変なので、まとめたファイルを作ってあります。

  • 講演の演題(複数候補から選択)
  • 交通費の計算方法
  • 当日準備してほしいもの
  • 講師紹介文の参考
    などを一括で案内。

年度が始まったタイミングでそれを送って、日付・人数などを入力してもらうGoogleフォームも一緒に送ります。
「この1通で準備が分かる」ようにして、なるべく少ないメールで済むようにしてます。


性教育の時間をどう確保するか:学校への伝え方

福田:授業時間について、こちらからどうお話しされてますか?
45分とか50分とか言われることも多いですよね。
集合に10分かかって、実質30分しかない、みたいな。

星野:ありますね。今は「この順番でこの内容を話すので最低1時間は必要です」と理由付けしてお願いしています。
先生から「この話をしてほしい」と要望を聞いた上で、「それなら最低この時間は必要」と伝えると、学校側も確保に動いてくれることがあります。

福田:限られた時間の中でテーマもあり、質問にも答えるとなると、時間配分はどうしていますか?

星野:基本は50分〜1時間、できれば70分をお願いして、細かいタイムマネジメントを毎回ガチガチにするというより、頭の中で「今の残り時間でどこまでいけるか」を考えながら進めています。
ただ「水の交換ゲーム」を入れると、相手次第で読めなくて配分をミスるときもあります。

〈性教育講演での様子〉

福田:なるほど。

星野:あと、始まりの“儀式”みたいなの(挨拶や紹介など)を長く取るより、話す時間を確保したいので、校長先生の挨拶や紹介は短くしてもらうようお願いすることもあります。
講師紹介は「看護師・星野」で十分です、と。

性教育講演依頼の狙い目は春!?

福田:呼ばれるのは授業というより行事の中が多いですか?

星野:行事の中が多いですね。主催も保健部・生徒指導部・学年などいろいろで、Googleフォームで聞いています。

福田:時期の傾向はありますか?

星野:群馬県は12月近辺が多いです。昔の「エイズ予防講演会推進事業」の名残だと思います。世界エイズデー(12/1)もあって、秋〜12月が多い。

〈性教育イベントで出展参加する星野さん〉

福田:春(3〜5月)は少ないですか?

星野:少ないです。式典もあるし、養護教諭は健康診断で忙しくて動けない時期なので。

福田:学校以外(外部団体、自治体、男女共同参画センターなど)なら、4〜5月は逆に狙い目かもしれないですね!


性教育コミュニティkokorocolorの活動について

福田性教育コミュニティkokoro colorについて、どんな活動をされているか簡単に教えてください。

星野:2020年、コロナで性教育のイベントや研修が軒並み中止になったときに、「みんなで集まって性教育の話がしたい」と思ってオンラインイベントを開催したのが始まりです。
参加者から「性教育を勉強したくても場所がない。居場所がない」と声をもらって、誰でも参加できる性教育の居場所を作ろうと思いました。
今はLINEのオープンチャットを中心に、月2回くらいZoomで勉強会をしたり、LINEのライブトークで交流したりしています。
最近のテーマだと、緊急避妊薬が薬局で販売されるようになったことについて、SNSでの反応共有や、学校でどう伝えるか(生徒にどう返すか)をみんなで考えたり、研究データをもとに議論したりしています。
参加者は、性教育をバリバリやっている人もいれば、勉強したいけど何をしたらいいか分からない人もいて、フラットに話し合える場になっています。

 

講演のその先へ:Instagramと書籍化の目標

福田:今後の目標や野望があれば、教えてください!

星野:いつか辞めるんだろうと思いながら続けてきたけど、辞めずにここまで来ました。
子どもが生まれてからは、性の話を“特別にする”んじゃなくて、日常の中で当たり前に扱えるように意識して子どもに接しています。
それも学ぶ機会があったからだなと思っていて、自分の子どもが性で困らないように、子どものために勉強していきたいです。

野望としては、ずっと「次は書籍化だよね」と言われてきて、まだ話はないけど、Instagramをこんなに頑張ってるなら書籍化できたらいいなと。
出版社から「やりませんか」と言われたら「やります!」って言えるように、日々投稿を良くしていこうと思っています。
目標はフォロワー1000人、そして書籍化
以前、看護師としての仕事とのバランスについて悩んだ時期もありましたが、慎重さを持ちながら活動を続けています。

福田:インスタ投稿、私も見てて楽しいです。応援しています!

〈定期的に丁寧な投稿をされているので、ぜひ星野さんのInstagramをご覧ください。〉

星野:ありがとうございます。インスタを頑張ってる理由は、講演を聞いた生徒が「もっと知りたい」と思ったときにアクセスできるツールにしたいからです。

あと、どの学校でも、その学校に合わせた資料を用意してます。
裏面にQRコードをたくさん貼って、「今日のみんなのために選んだ信頼できる情報サイト」へ飛べるようにして、正しいかどうか曖昧な、不適切な情報に行かないようにしています。

そのリンク先の一つとしてInstagramも入れてます。

福田:最後に、性教育事業を頑張ろうと思っている人へのメッセージがあればお願いします。

星野:性教育を勉強し始めた頃は「自分しかやってない」と思っていたけど、SNSやZoomなどで全国の人と繋がれるようになって、たくさん仲間がいると分かりました。
学校現場でも「協力者を作るのが大変」「難しい」と悩む声はあるけど、仲間を作る方法はいくらでもあります。
一人じゃないと思って、くじけずにやってほしいです。

〈セイシルの紹介をしてくれている星野さん〉


いかがでしたか。

忙しい看護師の仕事の合間を縫って講演を続けること。
生徒の事前質問を集めて、Instagramでも丁寧に答えていくこと。
「無理して聞かなくてもいい」と最初に伝え、安心して学べる場をつくること。

その一つひとつの積み重ねが、生徒たちにとって“自分ごと”として考えるきっかけを生み出しているのだと感じました。

そして何より印象的だったのは、「自分の言葉が届いているのか分からない」と感じながらも、それでも16年間伝え続けてきた星野さんの姿勢です。
講演を聞いた生徒が将来、同じように性教育を伝える側になったり、学び続ける仲間としてつながっていったりする―そんな連鎖が、少しずつ広がっていることが伝わってきました。

このシリーズ【性教育実践インタビュー】では、今回の星野さんのように、現場で性教育に向き合う人たちのリアルな実践や工夫をお届けしていきます。

「性教育をやってみたいけれど、何から始めたらいいんだろう?」
「自分の現場でもできるだろうか?」

そんな問いを持つ方にとって、現場の声が小さなヒントや勇気につながれば嬉しいです。


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