【性教育実践インタビュー】現場の声から考える性教育 玉田先生に聞きました!

【性教育実践インタビュー】現場の声から考える性教育 玉田先生に聞きました!

投稿者 : on

学校の性教育をより良くしたい──。そんな思いで現場に立ち続けている先生たちの取り組みを紹介する、【性教育実践インタビュー】シリーズ

第1回となる今回は、私立の高等学校で長年保健教育に携わり、独自のカリキュラムで14年間、性教育を実践している玉田先生にお話を伺いました。

ご自身の体験、授業での工夫、生徒の変化、そして「今の学校に必要だと思うこと」まで、たっぷり語っていただきます。

インタビュアーは、セイシルを運営する元保健体育教員の福田です。
現場のリアルな声と実践方法を参考に、ぜひ一緒に性教育を考えていきましょう。


性教育に興味を持ったきっかけ

セイシル福田(以下、福田):玉田先生、よろしくお願いします!
では早速、性教育に関心を持ったきっかけから教えてください。

玉田先生(以下、玉田):こちらこそよろしくお願いします!
始まりは高校〜大学時代です。私は女子中高一貫校で10年間女子校出身だったので、女性同士の関係の話や、ドラマの中の「いろいろな愛の形」に触れることが多く、「もっと知りたい」と思うことが多かったんです。当時はSNSもなく、本屋で立ち読みしたり買って読むしか情報源がありませんでした。自分が知りたいことを誰も教えてくれなかったんです。

さらに大きかったのが、出産・子育ての経験です。からだや気持ちが揺れた経験があるからこそ、「同じように不安な人の背中を押したい」という思いが強くなりました。

もともと私は体育科「部活命」のタイプで、大学からダンスを始め、着任校にダンス部がなかったので自分で立ち上げました。部は全国大会にも出られるほどに育ちましたが、時代が変わる中、昭和的な「ガンガン指導」から抜け出せない自分とのズレを感じ、生徒主体にシフトしました。

そのタイミングで、長年保健を担当していた先生が退職され、私がどっぷり保健を引き受けることになり、日本の性教育の遅れを痛感し、今までの想いも合わさって、一気に自分の熱量が性教育に全振りするようになりました。

14年間の保健授業での性教育実践

福田:教員人生が大きく動いた瞬間ですね!最初に取り組まれたことは何でしたか?

玉田:まず、「忘れられない、イヤ、忘れたくない授業にしたい。生徒たちの一番役に立つ教科になりたい!」という目標を掲げて、保健の教科書の順番を見直しました。性に関する単元は本来2年生なのですが、「中学までに知っているべきこと」がかなり足りていないと感じたので、思い切って1年生の最初に持ってきたんです。

保健の授業の年間およそ30時間のうち、5時間だけ他の単元に割き、残りはすべて性に関連づけて構成しました。このカリキュラムは14年間続いていて、今は他の先生も継承してくれています。

福田:すごい!この改革は私立だからこそですね。でも、保健の授業内容はほとんど性に関連づけて話すことは可能だと私も思います。

玉田:毎回、性のことを学ぶ習慣がついていくのが良いですよね。授業の大きな軸になったのが、遠見才希子先生の『ひとりじゃない』という本との出会いです。共感する部分が多く、朗読したり、自分自身と向き合うための資料として配布して、気持ちを書いてもらったりしています。知識と気持ちの両方を扱えるのが、この本の良いところです。

〈14年間愛用している、玉田先生の宝物の本と生徒用の配布資料〉
本の監修者である岩室紳也先生サインに加え、
講演会で学校にお招きした際に直接いただいたサインも添えられています

参考:『ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって?』著 | 遠見才希子

福田:遠見先生の言葉が生徒たちの心を掴むんですね。授業内容についても教えていただきたいです!

玉田:単元ごとに導入としてクイズを入れています。男性のからだ、女性のからだ、性感染症などを、あえて「何も見ずに」答えてもらうと、正答率がとても低い。生徒たちも「自分は何を知らないのか」に気づけるので、その後の学びが深くなります。

他に、国際セクシュアリティ教育ガイダンスを紹介して、「世界では9〜12歳でどうしたら妊娠するのか、避妊法、性感染症まで学んでいる」と話します。そして、「この1年間で世界基準に追いつくぞ!」と宣言します。最初は「セックス」という言葉だけで固まる生徒もいますが、私は特別視せずに堂々と話す姿勢が大事だと思っています。


福田:生徒たちの前で、明るく拳をつき上げて宣言する玉田先生が想像できます!ちなみに、テストはどんな感じですか?

玉田:テストは「人生に役立つ知識」に寄せた設問や記述が多いです。例えば中絶では、是/非の立場を選んで自分の考えを書く、学んだ知識を覚えているだけ書くなど、採点は大変ですが、その分、深い定着を目指しています。

3学期には、「何を学び、どんな気持ちに変化したか(プラス・マイナス両方)」を書いてもらいました。結果は圧倒的にプラスが多く、「知ることができてよかった」「安心した」という声が多かったんです。自分自身も「初めて採点を楽しいと思えた」というくらい、手応えのある内容でした。

1年の終わりには、(性のことを)「友だちと普通に話せるようになった」「お母さん・お父さんとも話せるようになった」などの感想をもらいます。卒業生からも、「大学では知らない人が多くて驚いた」と言われることが多く、必要性を改めて感じます。

〈生徒に配付する性教育の資料〉
卒業してもこの資料を見たら玉田先生の声が聞こえてきますね

 

学校での性教育の課題

福田:玉田先生の学校における性教育に関して課題と感じることはありますか?

玉田:教科内では自由にできていますが、「学校全体の行事」としての性教育はまだ実現できていません。防災訓練は年2回必ずやるのに、性に関する安全はまだ「オプション扱い」です。管理職の先生も重要と思ってはくれていますが、時間割が詰まりすぎていて調整が進まないのが現状です。「薬物乱用防止指導のように、性の安全教育も義務化してほしい」というのが本音ですね。

保護者との連携もこれからの課題です。今のところ保健での性教育実践に対してクレームはゼロですが、「PTA向けの性の講演会」があれば学校全体の推進力にもなるので、今後挑戦したい点です。

玉田先生からのメッセージ

福田:性教育に必要性を感じているのに、なかなか実践できない、このままでいいんだろうか?と悩んでいる先生方が多いと思います。最後に、これから学校で性教育を実践していきたい先生たちへ、メッセージをお願いします。

玉田:「性教育が必要であると感じている気持ちは間違っていません」とハグをしながら伝えたいです。私自身も、必要性を感じていない大人に「どう伝えるか」で悩むことがあります。でも、「私自身がアップデートし続け、学び続ける姿を見せる」「一緒に考えませんか?というスタンスで広げる」ことを大切にしながら、『ひとりじゃない』ことを信じて、共に進んでいきましょう!

福田:やっぱり、学校で仲間(味方)を増やして、一緒に取り組めると良いですよね!今の子どもたちに伝えたいことはありますか?

玉田:子どもたちに伝えたい一番のメッセージは、「自分の気持ちがいちばん大事」ということですね。優しい子が多く、自分が我慢して丸く収めようとしがちです。でも、

  • 嫌なことは「嫌」と言っていい

  • 自分の気持ちを伝えていい

  • 喧嘩を避けるために全部飲み込まなくていい

ということを何度も伝えたいと思っています。

福田:素敵なメッセージをありがとうございます!

玉田:このインタビューを読んで、「私もやってみよう」と思ってくれる先生がいたら、とても嬉しいです。


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いかがでしたか。

教科書の順番を少し変えること。導入にクイズを1問入れてみること。「自分の気持ちを大切にしていい」と伝え続けること。

どれも小さな工夫の積み重ねですが、そのひとつひとつが生徒の安心をつくり、学校全体の空気をゆっくりと変えていく力を持っています。

そして何より、先生ご自身が「性教育は大事だ」という自分の感覚を信じて、生徒とともに学び続けていること。その姿勢こそが、生徒たちにとっての何よりの学びになっているように感じました。

このシリーズ【性教育実践インタビュー】では、今回の玉田先生のように、性教育に向き合う現場の先生たちの声をお届けしていきます。

「どうやって始めたらいいんだろう?」「自分の学校でもできるだろうか?」そんな問いに、現場の声がヒントになれば嬉しいです。

 


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