はどめ規定とは?性教育の現場で押さえたい意味と実践ポイント
投稿者 : on
学校や地域で性教育に関わっていると、性教育の「はどめ(歯止め)規定」という言葉にぶつかることがあります。
特に、性交、妊娠、避妊、性感染症、性暴力について扱うとき、受精・妊娠に至る過程について「どこまで話してよいのか」と迷う方は少なくありません。
まずは、現場でよくある疑問から整理します。
まず押さえたい「はどめ規定」FAQ
Q. はどめ規定とは何ですか?
性教育におけるはどめ規定とは、小学校理科で「人の受精に至る過程は取り扱わない」、中学校保健体育で「妊娠の経過は取り扱わない」とされている記述を指して使われる通称です。
法律名ではなく、学習指導要領やその解説にある制限的な記述を、現場で「はどめ規定」と呼んでいます。
Q. はどめ規定は「性交を教えてはいけない」という意味ですか?
「絶対に教えてはいけない」という意味ではありません。
国会答弁でも、歯止め規定は「決して教えてはならない」というものではなく、「全ての子供に共通に指導するべき事項ではない」という趣旨で説明されています。
Q. 外部講師はどこまで話してよいのでしょうか?
学校の授業として行う場合は、学校側との事前確認が重要です。
対象学年、授業目的、扱う内容、使う言葉、教材、保護者説明、授業後の相談導線をすり合わせておく必要があります。
特に性交、避妊、妊娠、性感染症、性暴力を扱う場合は、「講師個人の判断」ではなく、学校全体の共通理解のもとで実施することが大切です。
Q. はどめ規定があっても包括的性教育はできますか?
できます。ただし、学校教育の枠内では、発達段階、学習指導要領、学校全体の合意、保護者への説明可能性を踏まえて設計する必要があります。
包括的性教育は、性交や避妊だけを扱うものではありません。
身体、心、人間関係、同意、尊重、相談、情報リテラシー、性暴力予防などを含む広い学びとして組み立てることができます。
はどめ規定(歯止め規定)とは何か
性教育における「はどめ規定」とは、法律名ではなく、学習指導要領※(全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程の基準)や、その解説にある「取り扱わないものとする」という記述を指して使われる通称です。
小学校学習指導要領解説・理科編では、
「人は、母体内で成長して生まれること」を扱う一方で、「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」とされています。
中学校学習指導要領では、
「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まる」という観点から受精・妊娠を扱う一方で、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とされています。
この「受精に至る過程」や「妊娠の経過」が、現場ではしばしば「性交」の扱いと結び付けて理解されます。
そのため、はどめ規定は、学校で性交や避妊を扱うことへの心理的・制度的ハードルとして語られてきました。
※参考:学習指導要領とは?/文部科学省
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学校段階 |
関連する内容 |
歯止め規定として語られる部分 |
実際の記述の情報源 |
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小学校 理科 |
人の誕生・母体内での成長 |
人の受精に至る過程は取り扱わない |
【第5学年】3 内容の取扱い(4) (p.105) |
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中学校 保健体育 |
心身の発達・受精・妊娠 |
妊娠の経過は取り扱わない |
【保健分野】3 内容の取扱い(7) (p.129) |
「教えてはいけない」という意味なのか
ここは誤解されやすいポイントです。
国会答弁※では、はどめ規定について「決して教えてはならないというものではなく、全ての子供に共通に指導するべき事項ではない」と説明されています。
また、学校が必要と判断する場合に指導したり、個々の生徒に対応して教えたりすることはできる、という趣旨も示されています。
※参考:あべ俊子文部科学大臣記者会見録(令和7年6月13日)
つまり、はどめ規定は「絶対禁止」ではありません。
一方で、すべての児童生徒に一律に指導する内容ではない、という整理があるため、学校現場では慎重な判断が求められます。
性教育従事者にとって重要なのは、「教えて良い/悪い」の二択で考えないことです。
むしろ、次のような問いに落とし込む必要があります。
- この授業の目的は何か。
- 対象学年の発達段階に合っているか。
- 学校全体で合意されているか。
- 保護者にどう説明するか。
- 集団指導で扱う内容と、個別支援で扱う内容をどう分けるか。
- 授業後に相談できる導線はあるか。
この設計がないまま「性教育だから何でも扱う」「はどめ規定があるから何も扱わない」と振り切ってしまうと、どちらも子どもに必要な学びを届けにくくなります。

なぜはどめ規定が問題視されているのか
はどめ規定が問題視される理由は、文言そのもの以上に、現場での受け止められ方にあります。
「取り扱わないものとする」という表現は、実践者にとって強いブレーキになります。
特に、外部講師、養護教諭、担任、管理職、教育委員会、保護者の間で共通理解がない場合、「そこまで踏み込むと問題になるのではないか」という不安が先に立ちます。
一方で、中学校保健体育の解説では、エイズや性感染症の予防に関して、HIVの主な感染経路が性的接触であること、感染予防には性的接触をしないことやコンドームを使うことなどが有効であることにも触れるよう示されています。
ここに、現場の悩ましさがあります。
性感染症やコンドームには触れる必要がある。
しかし、性交や妊娠の経過については慎重な扱いが求められる。
この間で、どこまでをどう説明するのかが、性教育従事者の実践上の大きな論点になります。
はどめ規定を撤廃するための実行委員会(〝人間と性〟教育研究協議会幹事会などで構成され、教育評論家の尾木直樹さんらも賛同人となっている。)は、署名運動※を2025年9月に開始し、約2ヶ月後には文部科学省に 42,759筆の署名を提出しました。
※参考:「はどめ規定」をなくして、いまこそ当たり前の性教育をこの国に
性教育従事者が押さえたい実践のポイント
はどめ規定をめぐる授業設計では、まず「目的」を明確にすることが大切です。
性交や避妊を扱う場合でも、それは興味をあおるためではありません。
子どもたちが自分の身体を理解し、予期せぬ妊娠や性感染症、性暴力、性的搾取、誤情報から自分と他者を守るための知識と判断力を育てることが目的です。
次に、集団指導と個別指導を分けて考えます。
集団指導では、身体の変化、プライベートゾーン、同意、境界線、相談先、情報リテラシー、性感染症予防、妊娠に関する基本的な理解など、全員にとって必要な基礎を扱います。
一方、個別指導では、妊娠不安、性的被害、交際関係の悩み、性的行動に関する相談など、個々の状況に応じた支援を行います。
また、外部講師として関わる場合は、学校との事前打ち合わせが欠かせません。
授業案、使用する言葉、教材、保護者説明文、質問への対応、授業後の相談先をあらかじめ共有しておくことで、現場の不安を減らすことができます。
文部科学省資料でも、性に関する指導において産婦人科医や助産師などの外部講師を活用することについて、教育委員会へ周知しているとされています。
特に大切なのは、「学校に迷惑をかけないように薄める」ことではなく、「学校が説明責任を果たせる形に整える」ことです。
子どもの権利、健康、安全、尊厳を守る教育として、堂々と説明できる設計にする必要があります。

包括的性教育の視点から考える
国際的には、包括的性教育は、性を単に生殖やリスクの問題として扱うのではなく、身体、感情、人間関係、権利、尊重、意思決定を含む学びとして位置づけられています。
UNESCOは包括的性教育を、性の認知的・感情的・身体的・社会的側面について学ぶ、カリキュラムに基づいた教育プロセスと説明しています。
包括的性教育は、性行動を促すものではなく、子どもや若者が健康、尊厳、尊重ある人間関係、自分と他者の権利を理解するための教育です。
この視点から見ると、はどめ規定をめぐる議論は「性交を教えるかどうか」だけの問題ではありません。
子どもたちが、性に関する情報をどこで、誰から、どのような文脈で学ぶのかという問題です。
インターネットやSNSには、断片的で刺激の強い性情報があふれています。
だからこそ、学校や地域で行われる性教育には、科学的で、年齢に応じていて、人権と尊重を土台にした学びを届ける役割があります。
朝日新聞が実施した保護者向けのアンケート調査※によると、回答を得た方の9割弱が「教育現場での性教育の充実」を求めている実態が浮き彫りになりました。
また、実践上の大きなハードルとなっている学習指導要領の「はどめ規定」についても、約7割の方がその必要性を感じていないという結果が出ています。
※参考:学校での性教育、充実を望む保護者 はどめ規定「不要」声も 朝日新聞社アンケート
まとめ:はどめ規定を「できない理由」にしない
はどめ規定を「何もできない理由」にしてしまうと、子どもたちに必要な知識と支援が届かなくなります。
大切なのは、発達段階に応じた内容を、学校全体の合意のもとで、保護者にも説明できる形で届けることです。
性教育は、子どもたちに性行動を促すものではありません。
自分の身体を知り、相手を尊重し、危険に気づき、必要なときに助けを求める力を育てる教育です。
はどめ規定をめぐる議論が続く今こそ、性教育従事者には、萎縮ではなく、丁寧な設計と対話が求められています。
子どもたちの安全と尊厳を守るために、現場からできることを一つずつ積み重ねていきましょう。
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